音楽は誰のものか―ネットレーベルってなに?CALMLAMP主催yamazuma氏にインタビューしてみた

 

■ネットレーベル「CALMLAMP」主催のyamazumaにインタビュー

CALMLAMP主催のお二人。右がyamazuma

CALMLAMP主催のお二人。右がyamazuma

 

 以前このブログで「ダウンロード刑罰化から1年、影響はどこに?」という記事を載せたが、まさしくタイムリーにJASRACの著作権使用料一括徴収方式が独禁法違反の疑いがあるという東京高裁の判決が11月1日付けで出た。著作権使用料一括徴収方式とはつまり、テレビやラジオの局がJASRACに対し著作権使用料を一括して支払う代わりに、JASRACに登録された楽曲を使い放題にするというものだ。これが、他業者の新規参入を排除していると判断された。

 このように、日本の著作権管理の状況がいままさに変わろうとしているなか、仮にも音楽に人生を救われた僕なりに、音楽産業の現在の状況とこれからについて本腰を入れて調査していこうと思う。

 まず、学部生時代に所属していたサークル「ユーロロック研究会」の後輩という身近な存在であり、ネットレーベル「CALMLAMP」を主催しているトラックメイカーのyamazuma氏にお話を聞いた。

 

■「ネットレーベル」の定義と意義

CALMLAMPトップページ

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 まず、ネットレーベルとはなにか。明確な定義はまだ為されていないが、およそ①アーティストによる音源ごとの「リリース」であり、②運営側がそれで生計を立てているわけではなく、③音源を無料配信している、という3つの特徴が挙げられるらしい。ここ2,3年で誕生した概念、ムーブメントであり、「マルチネレコード」や「分解系レコーズ」など有名なレーベルの名前を聞いたことがある人もいるだろう。

 では、ネットレーベルの魅力とはなんだろうか。つまるところ、なにをしているのか。ひとつは、音源リリースのブランディングおよびプロモーションだ。つまり、アーティストにとって「自分の音源をあのレーベルから出した」ということが、そのままアーティストの音楽性を伝える名刺代わりになるという。

 また、ネットレーベルには柔軟な「パッケージング」という強みがある。例えばCALMLAMPでは「PixaPhonica」というコンピレーションアルバムの企画で、音源それぞれにつき1枚の写真ファイルを添えてZIPファイル形式にパッケージングし、自身のWebサイトから配信している。このように音楽と写真のマルチメディアコンテンツとして配信することで、普段音楽を聞かない写真好きな層にも音楽を届けられるという。これは、iTunesや従来のCDの販売手法ではできないネットレーベルならではの工夫に富んだプロモーション方法だ。

 運営者でもありアーティストでもあるyamazumaによると「アーティストは自分に合ったリリース方法を選択する時代になっている。これからは媒体問わずマネジメントの力があるレーベルが残るだろう。ネットレーベルは音源の完成から配信までのスピード感も魅力」だと話す。

 

■「イベント」と「ドネーション」という収益モデル

 

 では、音源が無料配信ならば収益はどうしているのか。まず、運営側はレーベルで生計を立てているわけではないということは先ほど述べた。最低ブログひとつあればいいという運営コスト上のメリットもある。ある意味産業構造から切り離されているからこそ、独自色が出せるというのも強みなのだろう。しかし、赤字続きではさすがにモチベーションにも影響が出る。実は、ネットレーベルの収益の中心は定期的なライブイベントだという。このように、収益が音源からイベントなどに移行しているという現状がある。

CALMLAMPでは、「運営費用を100%音源販売で稼ぐ必要はない。収益の中心をライブやイベントに置き、音源はその宣伝に利用する」という考えのようだ。一方、「TANUKINEIRI」という美濃国のネットレーベルでは、「生活がよりドラマティックで素敵な物に」という思いのもと、同じサイト上で音源の配信とともに陶器の販売も行っており、音源が陶器販売の宣伝となっている。ちなみに同レーベルの「Tanukineiri Drink Sampler」というコンピアルバムでは収録曲のタイトルがすべて「飲み物」で構成されており、面白い。

 また、個人アーティストがBandcampなどの音楽直販サイトに自身の楽曲をアップして販売するケースも増えている。その際アーティストは価格を含めて自ら設定するが、ユーザー側は設定価格以上の金額も支払うことができる。無料に設定してBandcampにアップしていた楽曲が、いつのまにか100ドル稼いでいたというのはよくあることのようだ。もともと無料なのに対価を支払うというのは、違法ダウンロードとは真逆の動きのように見える。

 yamazumaは、「違法ダウンロードをする層としない層では音楽の聴き方が異なる。また、違法ダウンロードで不利益を被る層と、知名度向上のためむしろ無料で音源を配信する層を一括りにはできない」と指摘する。ネットレーベルのように比較的コアなリスナー層が存在する領域では、ライブの収益やドネーション文化がアーティストを支えている。

 

■クオリティと制作費の切れない関係

 

 一方、楽曲制作には莫大なお金がかかることも確かだ。元プログレッシブロックバンド「四人囃子」のベーシストで音楽プロデューサーの佐久間正英氏は自身のブログの「音楽家が音楽を諦める時」という記事の中で、年々減るアルバム制作費に苦言を呈し、「どんな形であれ音楽制作には経費が派生する。その経費は”音の作り方・クオリティそのもの”に正比例する」と述べている。

 現在はCubaseやProtoolsなどの普及により以前に比べて楽曲制作費は格段に下がったものの、生楽器の演奏に質を求めるならばやはり多額の費用が必要だ。インターネットにおけるフリーカルチャーやドネーション文化などを手放しで喜べない要因のひとつがここにある。

 

■「Creative Commons」という新たな著作権概念

 

 しかし、佐久間氏もブログ記事後半で「今音楽は急速に無料化に向かっていると感じる。その波そのものには僕自身も賛同する部分もあ」ると述べるように、楽曲が簡単に手に入ったり、容易に二次利用が可能になったことは、ニコニコ動画の「演奏してみた」や初音ミクブームなど、音楽文化全体の発展に少なからず寄与している。しかし、当然心血を注いで創った楽曲を利用されるアーティスト側の権利を守る必要がある。それが著作権だ。

 CALMLAMPでは、楽曲の著作権をJASRACに委託せずに、リリースの一部にCreative Commonsライセンス(CC)を楽曲に付与して自ら管理している。CCとは、アーティストが楽曲の二次利用許可などを明確に示すために利用されている世界的なライセンス表示法のひとつだ。例えばCALMLAMPは、一部のリリースに関して非営利での楽曲利用を許可している。また、同じくネットレーベルの「ALTEMA Records」や「分解系レコーズ」は、すべての楽曲にCCライセンスを付与することで、リミックスなど楽曲を通したリスナーとアーティストのコラボレーションを推進している。CCの詳しい説明はWikipediaを参照して欲しい。

 利用依頼の申請などが煩雑なJASRACに比べて許可が明確なCCは、二次創作ブームとともに拡大している。アーティスト側も、自分で著作権を管理したいという思いとともに、積極的に二次創作のために利用して欲しいという気持ちもあるようだ。

 

■巨大な著作権管理団体JASRACがもたらすメリット、デメリット

 

 では、日本の巨大な著作権団体JASRACとはなんだろうか。日本で発売される楽曲のほとんどは、JASRACがその著作権を管理している。例えば個人制作の映画でJASRACに登録されている楽曲を使用し、公衆の前で放映したい場合は許諾を得る必要がある。また、冒頭述べたようにテレビ局はJASRACと年間などで包括契約を結び、番組内で楽曲を使用している。この仕組みにおけるメリットは、日本ではほとんどの楽曲の著作権をJASRACが一元的に管理しているために、使用側が個別にアーティストと連絡を取り許可を得なくてもよいという点だ。

 しかし、デメリットもある。昨年9月に、アーティストのKazz Watabeさんが以前所属していたバンドの楽曲が、テレビ朝日の報道ステーションで無断使用されていることが発覚した。これは、報道ステーションのスタッフが、当然当該楽曲がJASRACに登録されているものと思い込み、使用してしまったために起きた事件だ。しかし、Kazz Watabeさんはこの楽曲の著作権を委託せずに自ら管理していた。

 この事件は2つの相反するできごとを象徴している。ひとつは、JASRACの独占状態による、日本における著作権管理意識の甘さである。実はJASRACに未登録の楽曲というのは数多くある。代表的なのはゲーム音楽で、ゲーム制作会社やミュージシャン自身が管理している。もうひとつは、著作権を自ら管理するという時代の到来だ。ネットレーベルやBandcampなど、いまや楽曲を自主制作して流通させる方法はいくらでもあり、CCの浸透とともにJASRACに登録しない楽曲が増えてきている。JASRACが独禁法違反であるという東京高裁の判決は、時代の流れを反映しているのかもしれない。

 

■音楽産業の今後

 

 以上見てきたように、音楽シーンにおける販売・収益モデルの多様化と著作権管理の問題は、密接に関わっていると僕は思う。また、Kazz Watabeさんの事件は氷山の一角であり、同様の「勘違い」による無断使用例がいくつもあると考えている。ただの無断使用であれば罰すれば済むが、この「勘違い」こそが、現代特有の問題だ。今後はまた関係者にインタビューなどをしつつ、アーティストの著作権保護と音楽業界の健全な発展という、トレードオフだと考えられがちなこの2点をどううまく協調させられるかということを考えていきたい。それが音楽に対する、僕なりの恩返しである。

 最後にひとつ、簡単な問題提起をしておく。ライブハウスなどでコピーバンドが演奏する楽曲やDJがプレイする楽曲の著作権使用料を考えたことはあるだろうか。僕はただ黙認されていると思っていたが、実はライブハウス側がJASRACと包括契約をして使用料を払っているらしい。しかもその使用料は演者側のノルマに上乗せされているという。しかし、オリジナル楽曲を演奏するバンドも多数いるが、その場合に上乗せされる使用料はどうなっているのか。個別の楽曲をきちんと申請するとしたら大変面倒くさいが、なかなか実態がわからない所である。