ITとデザインで行政の会議をハックする―Graphic Recordingの取り組み

先日の6月12日、僕が約半年に渡りスタッフとして携わってきた「国・行政のあり方に関する懇談会」の最終回が開催された。残念ながら会議そのものは終わってしまったが、この会議で僕たち学生と先生が行ってきた、議論をグラフィカルに可視化する「Graphic Recording」という取り組みを紹介したい。効果的なGraphic Recordingの手法を模索した結果、最終的に「Issue Mapping」という名前の手法に変わるのだが、その変遷も追っていく。

 

■「国・行政のあり方に関する懇談会」とは?

 

国・行政のあり方に関する懇談会」とは、稲田朋美行政改革担当大臣のもとで、次世代を担う若手の学者や起業家らが集まり、新しい行政のあり方を議論するというものだ。メンバーには社会学者の古市憲寿さんや、コミュニティデザイナーの山崎亮さんらが名を連ねる。テーマは毎回変わるが、「ITを活用した行政の革新」や、「行政と民間が組むソーシャルイノベーションの可能性」など、未来志向型の非常に面白い内容ばかりだった。

「国・行政のあり方に関する懇談会」のメンバー

「国・行政のあり方に関する懇談会」のメンバー

なぜ僕がこの会議のスタッフに招集されたのか、それは未だによくわからない。ある日突然、僕が修士1年生の頃にメディアデザインという授業でお世話になった、東海大学でデザインを教えている富田誠先生から「行政の会議を一緒にデザインで変えてみない?」という電話があり、「ええやん」と2つ返事でOKしただけだ。

そもそも富田先生に、この会議を運営していた内閣官房事務局の方々から「この会議でなにか新しい取り組みをやりたい」というお話があり、じゃあ学生誘ってなんかやりましょうということになったらしい。それで、僕を含む早大大学院ジャーナリズムコースの3人と、東海大学デザイン学課程の学生ら5人が集められ、同懇談会の第4回目から、「行政の会議をデザインでハックする」プロジェクトが始まった。

 

■Graphic Recording

 

では実際に僕たち学生が取り組んだ「Graphic Recording」(以下、GR)を紹介しよう。まずGRという概念は、僕たちが初めて創りだしたわけではない。日本ではデザイナーの清水子さんがパイオニアで、彼女の言葉を借りれば、GRとは「議論をビジュアルで可視化し、共有する手法」であり、「曖昧で答えが出にくい議論も、ビジュアル化し進めると、メンバー全員の思考が明確になり、新たな問題や解決策が浮かび上がる確率が高ま」るという効果がある。

彼女のスタイルは、ホワイトボードなどに1人でGRしていき、会議の参加者がそれを見ながら議論する、というものだ。しかし僕たちは、GRにiPadの「ShareAnytime」というアプリを使った。ShareAnytimeは、iPad上で自由に絵や文字を書き込んだりテキストを入力したりできる「ノート」を、同アプリがインストールされた複数の端末でリアルタイムに共有することができるというもの。あり懇のメンバーらにiPadを配ることで、僕たちGRチームが書き込んだノートが、手許の端末上にリアルタイムで反映されるという仕組みだ。会議のメンバーはそれを見て、議論を振り返ったり、思考を整理するのに役立ててもらう。

ではこれから、僕たちが行ってきたGRの手法を時系列で追っていく。また、以下に画像をアップしたGRの内容は、あり懇の公式ページからPDFでダウンロードできるので、是非見てみて欲しい。いままでにない議事録になっているはずだ。

キーワード化

ジャーナリズムコースは議論の「キーワード化」を担当した

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「グラフィック化」を担当した東海大学の学生が、リアルタイムでイラストを描きこんでいく

 

●手描きでGR with ShareAnytime

 

まず僕たちが最初に行ったGRは、典型的な「手書きの文字と手描きのイラスト」というスタイルだ。

第4回「リスクとどう向き合うか」のGR

第4回「リスクとどう向き合うか」のGR

この手法では、学生5人がチームになって取り組んでいる。

①PCで会議をテキストで記録していく係(記録漏れがないよう、メインとサブの2人に分かれている)
②記録されたテキストを見ながら、重要なセンテンスやキーワードを抽出してiPadに手書きしていく係
③メンバーの似顔絵(これは事前に準備)を配置したり、議論の内容に適したイラストを描き足していく係
④全体の配置を整える係

というように役割分担した。しかし、このスタイルには問題があった。GRは国の議事録としてホームページにアップされるため、どうしても後で修正しなければならないが、手描きのものだとそれが非常に難しい。それに、ShareAnytimeはキーボードでテキスト入力できるのだから、文字は手描きじゃないほうが効率がいいのではないか、と考えた。

 

●テキスト入力とイラストでGR with ShareAnytime

 

次に行ったのは、「テキスト入力と手描きのイラスト」というスタイルだ。

第5回「ITを活用した行政の革新」のGR

第5回「ITを活用した行政の革新」のGR

この回では、前回の②の役割が、iPadにテキスト入力する形式に変わった。そして、前回①ではメインとサブが異なるテキストとして議論を記録していたが、この回からGoogle Documentを使用して、メインが素早く粗々に入力した内容をサブが修正+補完していくというスタイルに変わった。そしてこの回では、そもそもGRがこの会議にもたらすべき効果とはなにか、というような根本的な問いがGRチームの中で沸き起こった回でもあった。そこで次回は、手法をガラリと変えることになる。

 

●Google Documentを使って「リアルタイム・ドキュメンテーション」に近いスタイルに

 

この回では、iPadを使わず、PCでGoogle Documentを利用したリアルタイム・ドキュメンテーションを中心にしたスタイルになった。

第6回「行政の現場」のGR

第6回「行政の現場」のGR

今度は、①が記録した内容を、②がコピー&ペーストでレイアウトできるようになったことで、作業が効率化された。そして、後で修正することも容易になった。しかし、最初に比べると、ただ似顔絵が足されただけの議事録のようなデザインで、なんだか味気ない。そして、リアルタイムに行っているGRは、ただ議論を振り返るためのものではなく、議論をファシリテーション(活性化)するものであるべきだ。そして次の回では、ふたたびShareAnytimeを使用することになる。

 

●議論をより図式化するようなGRに with ShareAnytime

 

この回では、ShareAnytimeを使用し、あえて一つの議題を1ページに収めることで議論を図式化する手法を採った。

第7回「社会課題をどのように解決するべきか?」のGR

第7回「社会課題をどのように解決するべきか?」のGR

最初のGRから僕たちは、「誰が話したか」ということを明確にしながら議論をタイムラインのように記録していた。しかし、もっと議論を俯瞰できるようにしたいということで、この手法が考えだされた。あるテーマの中で提供された論点の関係性に注目しながら、議題全体の地図を描くようにデザインしていく。この回の手法は事務局の方々にも評価され、手応えを掴んだ。

この手法は、ぱっと見で議論を振り返れるところも魅力だ。第8回目も同じ手法を採ったが、会議中にテーマが移る途中で一旦グラフィックレコーディングの内容を見ながら議論を振り返る時間が設けられ、会議に役立てているという実感があった。

 

●ついに「Issue Mapping」へ

 

最後に辿り着いた手法は、iCloudのKeynoteをブラウザで共有する仕組みを利用して、テキストと円でシンプルに議論をマッピングしていくというものだ。

第8回「国や行政がやるべきことは何か?」のGR

第8回「国や行政がやるべきことは何か?」のGR

イラストも排して非常にシンプルな見た目だが、円の大きさで重要性を表し、円同士の重なりで議題の関係性を表している。これは、テキストをキーワードとして記録していく係と、それを配置していく係の最低2人で実践できる。僕らが目指していた目標の一つは、「効果的かつ誰でもすぐ実践できるGRを」ということだった。そういう意味では、今回確立された「Issue Mapping」(命名はフリージャーナリストの江口晋太郎さん)は一つの到達点と言える。

 

 ●Graphic Recordingの効果と今後

 

事務局の方々がGRに期待していた効果は、大きく分けると「親しみやすくわかりやすい議事録をつくること」と、「会議を活性化すること」の2点だ。この二つのバランスをうまく取りながら、いかに効果的なGRを行うかを試行錯誤した結果、「Issue Mapping」という手法に辿り着いた。

やりながら気づいていったことだが、GRは本当に奥が深い。それはそのまま、なにかを視覚的に伝えるという「デザイン」の奥深さと繋がっているのだろう。会議の内容やスタイル、目的によって、適したGRの手法も異なる。しかし、懇談会のメンバーである経済学者の安田洋祐さんが、「あり懇のMVPはGRチーム!」と言ってくれたので、僕らはそれなりに会議の活性化に貢献できたようだ。

今後、一緒にGRに取り組んだ学生たちと富田先生で「GR合宿」を行い、更に洗練された手法を考えていく予定なので、乞うご期待。この記事を読んでくれた皆様も是非、ShareAnytimeを使ったGRや、Keynoteを使ったIssue Mappingを会社や団体の会議に取り入れて、その効果を体験してみて欲しい。

 

■最後に-ITとデザインで未来をハックする

 

今回の会議で取り入れた新しい取り組みは、GRだけではない。ShareAnytimeのノートはGRだけでなく、会議中に懇談会のメンバーが自由に自分の意見を書き込む「アイデアマッピング」としても活用していた。誰かが発言している途中でも自分の意見が共有できるため、司会者はそれを見ながら、次の発言者を指名していく。会議を挙手制で進めていくと議論が止まったり、あらぬ方向に話が飛んでしまったりするが、アイデアマッピングを使えば予め発言の概要がわかるので、議論が積み重なるように進行できるという効果があった。

そして、会議が終わったあと、議論の内容を一枚のグラフィックに落とし込む「Infographics」を富田先生が作成している。

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更に、会議はUSTREAMで生中継され、 #katarojpn というTwitterのハッシュタグも用意されており、会議中にtweetをピックアップして紹介したりもしていた。第7回からは、いわゆる「tsudaり」を行ってくれる江口晋太郎さんや災害会議のメンバーとして行政に関わっているショコラさんを招き、SNSの活用にも気を配っていた。

第6回の会議ではいつもの内閣合同庁舎の会議室を飛び出し、イトーキというレンタルオフィスで会議を開催し、一般人を招いて議論に参加してもらったりもした。

様々な取り組みを貪欲に取り入れた、行政の会議としては全く新しいものだったと思う。ITやデザインがお国の既存の方法論を鮮やかに変えていくのは夢があるし、その営みに参加できたことは光栄だった。そしてなによりも、事務局の方々の「行政の会議をもっと身近に、国の問題をじぶんごととして考えて欲しい」という強い気持ちに共感した。議事録をグラフィックにしようというのも、若者にどうにか見て欲しいという気持ちの表れだ。

問題解決のためのブレイクスルーとして、デザインやITを取り入れるのは、今後スタンダードになっていくだろう。そんな未来に期待したい。